第一話

将来のことなんてどうでもいいと思っていた。
バイトの忙しさで目を瞑って、それが良いのか悪いのかも考えずに毎日をだらだらと生きる。
自分の人生なんて所詮そんなものだと。

「高耶、俺書き終わったけど」
「あー俺まだだわ…」

進路希望調査書の前で何一つ書けずにいる俺の前に、譲は全て書き終えたであろう紙を持って立った。

「お前書くのはえーよ」

こいつは偉いなぁと思う。ちゃんと未来設計が出来てて、それに見合うだけの実力もあって。

俺とは違い譲は親父さんが医者っていうのもあり、県内の医大へ進学するという目標がある。

「まぁまぁゆっくり考えればいいよ。提出は放課後でも大丈夫でしょ。早く購買行こうぜ」

譲はそのまま教卓に調査書を出し、財布と俺の腕を引っ掴んで廊下を出た。





自分で作った弁当はあるがすぐ食べ終わってしまうし何か物足りないので、俺達はよく購買へ行く。プリンだとかゼリーを手にとる譲の隣で、俺は5個入りのサータアンダギーを買った。

「うわ胸やけしそー」
「無性に食べたくなんだよな」
「1個ちょうだいね。てかドーナツとの違いがわかんなくない?」

確かにな。どっちも好きだし。
春独特の暖かい陽気の中、廊下は昼休みの喧騒で包まれている。行き交う生徒達とすれ違いながら、途中にある電子レンジに足を止めた。





「なーんか今年のクラス替えさ、メンバーほとんど変わってなくてつまんないよねー」

壁に背中を預けてぼやく譲の横で、サータアンダギーを電子レンジに突っ込こんでボタンを押す。

「俺はクラス持ち上がりって楽でいいけどな」
「そーだけどさ。まぁまた高耶と一緒で安心したよ。千秋もいるし」

ヴーンと音を出している電子レンジを見つめる。
ちなみにサータアンダギーは袋に入ったままだ。前の奴もパン袋のままやってたし大丈夫だろ 。

「でも担任だけ変わったよね」
「そーいやそうだったな。前の奴はどっか違う高校行ったんだっけ」

最初から見た目の印象で目をつけられ、前の担任は散々だった。
まぁ新しい担任なんてどうでもいいか。
朝のHRで見たときはえらい男前で、クラスの女子達が騒いでいた。名前は確か…なおえ?だっけ。

「仰木さん」

唐突に名前を呼ばれ振り返ると、そこだけ初夏の風でも吹いてるかのように爽やかな男がいた。

「あ、直江先生」
「え?…あ」

噂をすれば影。
自分も身長は高い方だが、それより余裕で頭一個分高い男だ。しかもむかつくほどのイケメン。
朝は座っていて分からなかったが、近くで立つとなかなかの迫力にたじろぎそうになる。

「進路希望調査書もう皆出してますから、放課後までに忘れないでくださいね」

うるさい廊下の中でも消されないよく通る低い声に思わず頷く。
そしてそいつは爽やかな笑顔を残して去っていった。

「…なーんか大人の男って感じがうざいな…」
「なんで?いい先生っぽかったじゃん」

いい教師でもなんでも、基本大人は嫌いだ。
社会に対する反骨精神なんて熱いもんじゃないが、今まで散々難癖を付けられてきたんだ。好きになる方が無理。

「…ちょ、ちょっと高耶!火!袋燃えてるっ!」

火?振り返るとレンジの中で袋が先端から火を出していた。

「うわぁ!」
「なんで袋のままチンしたの!?」

最もな意見に言い返せず、勝手にキャンプファイヤーを始めた電子レンジに手を突っ込んだ。




真面目に生きてる奴も、だらだら生きてる奴にも平等に春はやってくる。
俺たちは今日、高校二年なった。
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